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- 2025.01.05
- CATEGORY先生のへや
糖尿病とシナモン
最近ある患者さんに、シナモンが糖尿病に効くかどうか聞かれました。シナモンについて聞かれるのは久しぶりだなと感じました。というのも、シナモンが糖尿病に良いとされる話は、2003年にアメリカの糖尿病学会が発行している権威ある雑誌『Diabetes Care』で発表されたのがきっかけです。シナモン摂取により、血糖値やLDLコレステロール、中性脂肪が下がったというものでした(1)。
ところが、2007年に同誌で発表された米国で糖尿病患者を対象としたプラセボ対照試験では、シナモンは血糖値、HbA1c、LDLコレステロール、中性脂肪、いずれにも効果が見られませんでした(2)。2008年にはメタアナリシスという統計手法(ただ一つの研究では、たまたま効果があるような結果が出ることもあるため、複数の研究を統合することでより精度の高い結果が得られます。)を使い、5つの研究結果を分析した結果、やはりシナモンには効果がないと判定され(3)、シナモンブームは一挙にしぼんだのでした。
シナモンの糖尿病に対する効果についての研究はその後も続いているようですが、効果があったとする研究となかったとするものが混在している状況です(4,5)。シナモンに糖尿病に有効な成分があるかどうか、それがどのように作用するかなどの研究もされているようです(4,5)。もしシナモンに含まれる成分で糖尿病に効果があるものが見つかれば、糖尿病患者にとっては朗報となります。
それでは、現時点で糖尿病の方が血糖改善のためシナモンをとったほうがよいのでしょうか?最初に紹介した論文では、シナモンパウダーグループを3つに分け、それぞれ1日あたり1、2,3g飲んでもらっています。ネットでS&Bシナモン(パウダー)を調べてみました。12g入で185円でした。1日1gだと12日分ですが、3gとると4日分です。果たしてこれを毎日飲むことができるでしょうか?
香辛料として少量ずつ食べるのであれば問題ないでしょうが、これだけ大量のシナモンを毎日摂り続けた場合、本当に危険性はなないのか、誰も検証していません。シナモンにはクマリンという成分が含まれており、これが肝障害を来す可能性もあります。手間とコスト、リスク、そしてこれまでの臨床研究で一定した結果が出ていないことを考えれば、糖尿病治療のためシナモンを毎日摂取することはおすすめできません。今後シナモンから血糖低下に有効な成分が抽出され、その効果が証明されることを期待します。
参考文献
1) Diabetes Care 26:3215–3218, 2003
2) Diabetes Care 30:2236-2237, 2007
3) Diabetes Care 31:41–43, 2008
4) BMC Complementary and Alternative Medicine 13:275-284, 2013
5) Nutrients 14:2773-2785, 2022,