BLOGブログ
- 2024.09.01
- CATEGORY先生のへや
健康食品の健康リスク
7月11日付けの朝日新聞に「健康食品称し違法医薬品:無許可成分5年で600件行政指導」という記事が出ていました。この記事や紅麹問題は、健康食品やサプリメント(今回これらを健康食品と総称します)が必ずしも安全ではないことを示しています。医薬品の場合は、医師が薬を投与したあとも副作用が出ていないかどうか、常に監視することができ、適宜肝機能や腎機能を調べることができます。また、薬の副作用が疑われた場合、それを医療機関が製薬メーカーを通じて報告し、国からその副作用情報がそれぞれの医療機関に通達されるシステムがあります。それに比べ、機能性表示食品で副作用が出たとしても、メーカー側にその報告義務はありませんでした。今後法令で被害情報の行政への報告義務が課されるようになるようですが、果たして一般の方が健康障害が起こったとしてそれが健康食品によるものであると気がつくかどうか疑問です。健康食品を利用する場合、「健康食品摂取した場合に健康リスクを伴う可能性があること」をあらかじめ認識していることが必要なのです。
私はこれまでの健康食品の総説論文でもそのリスクについて解説してきました(1-3)。今回紅麹問題が起こったとき、某週刊誌からの取材を受けて、健康食品のリスクについて述べたのですが、その内容はまったく掲載されませんでした。ですからあえて今回健康食品のリスクについて取り上げました。それぞれの健康食品の副作用について知りたい方は、内藤裕史著「健康食品・中毒百科」(丸善刊)が参考になります。
1.アレルギー反応:一般の食品と同様に、健康食品も経口的に摂取するものである限り、アレルゲンとなりえます。例えば、プロポリスはアレルギーを起こしやすい健康食品の一つであり、本邦でもプロポリス摂取によるアレルギー性の肝障害を起こし、重症化した例が報告されています。
2.中毒反応:国内での健康食品による薬剤性肝障害の原因として報告されているものとして、ウコン、アガリクス、プロポリス、クロレラ、ノニ、スクワレンなどがあり、特にウコン、アガリクスが多く報告されています。
3.薬理学成分に由来した障害:もし、健康食品に何らかの薬理学的効果があるとすれば、それが原因となり健康障害を来す可能性もあります。たとえば、イチョウ葉エキスには抗酸化作用があるほか、血小板凝集抑制作用もあるといわれ、海外ではイチョウ葉エキスによる脳出血例が報告されています。
4.変異原性:一部の健康食品には発がん性が指摘されているものもあります。高用量のカプサイシンは胃がんの発症に関わるとの報告もあります。
5.医薬品との相互作用:クロレラや青汁にはビタミンKが豊富に含まれているため、ワルファリンの効果が阻害され、その効果が減弱してしまいます。ワルファリンを服用している方はこれらの健康食品は取ってはいけません。その他、セント・ジョンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)には薬物代謝酵素CYPを誘導する作用があり医薬品の効果を減弱させることがわかっています。特にハーブ系の健康食品の場合は、医薬品との相互作用について十分研究されていないため、注意が必要です。
6.違法成分・不純物の混入:2002年、2005年に発生した中国製ダイエット用健康食品による健康被害も違法成分の混入によるものでした。中国製の健康食品に糖尿治療薬成分が含まれ低血糖をきたした例も報告されています。その他、健康食品の製造過程にて、有害成分が完全に除去されていない例、違法成分・不純物が混入した例が報告されています。特に外国製の健康食品では、違法成分・不純物の混入に注意すべきであり、十分な知識のない方、きちんと情報が分析できない方は、健康食品の個人輸入は避けるべきと考えます。
7.特定の人に対するリスク:原則として健康食品を摂取対象は健康成人です。乳幼児、小児、高齢者、妊婦、授乳婦、肝機能や腎機能が低下している人たちが摂取した場合、健康成人にとって問題ない健康食品であっても問題が起こる可能性があります。大人と乳幼児、小児では代謝機能が異なり、健康食品の小児用量は決まっていません。子供に健康食品を与えている例を聞いたことがありますが、これはやめてください。腎機能障害者が青汁などのカリウム含有食品を摂取した場合、高カリウム血症よる致死性不整脈を来す可能性があります。
8.長期的リスク:喫煙者などの肺がんリスクのある方がβカロテンを含む健康食品を長期に摂取したところ、かえって肺がんの発症率が上昇したとの報告があります。βカロテンを含む健康食品はリスクがベネフィットを上回っており一般の方は摂取すべきではありません。このように短期的にはなんの副作用がみられない場合でも、長期的には有害である可能性もあります。健康食品の歴史は浅く、長期的なリスクについてはほとんど情報がないのです。
9.過剰摂取の問題:患者の中には、健康食品を多く摂れば摂るほど効果が高くなると思いこんでいる人もいます。錠剤やカプセルであれば、容易に過剰摂取することが可能です。しかし、過剰摂取で問題が起こる場合があります。例えば、カルシウムやビタミンDなど過剰症による高カルシウム血症などが問題となっています。妊娠中のビタミンAの過剰摂取は胎児奇形の原因となると言われています。
健康食品を摂取するかどうか悩んでいる方は、上記の内容を心得たうえでご判断ください。
参考文献
1) 日本補完代替医療学会誌:2(1)23-26,2005
2) ホルモンと臨床:59(8)769-776,2011
3) medicina:51(13)2276-2280,2014
追記:「危ない健康情報を見分けるコツ ニセ科学に騙されないで!!」(https://www.youtube.com/watch?v=y6C9Vs63R9I)