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Narrative Based Medicine (物語に基づいた医療)とは? 

これまでEBMについて述べてきました。患者さんの病気を診断、治療する際には、科学的な情報が不可欠です。そのためには医学情報を科学的に評価し、その患者さんにどのように適用するか考える必要があります。ただし、患者さんは生身の人間ですから、科学的な理論のみに基づき診療できるとは限りません。

そこでEBMと患者さんの価値観や考え方を橋渡しする方法として、NBM(Narrative Based Medicine、物語に基づいた医療)が提案されました。

NBMにおける「物語」とはなにか?それについては、「ナラティブ・ベイスド・メディスン 臨床における物語と対話」(金剛出版)に臨床心理学者の河合隼雄氏が書かれた「推薦の辞」の以下の言葉がわかりやすいと思います。
「人間はそれぞれ、自分の「物語」を生きている、ということができる。「病気」もその物語の一部としての意味を持っているのだが、一般の医者はそれを無視してしまって、「疾患名」を与えることで満足する。しかし時にそれは、その人の物語の破壊につながってしまう。それでも、その疾患が医学的に治療可能な場合、まだ救いがあるが、治療が不可能な場合や、高齢者のケアのようなときは、それらの事実を踏まえて、患者がどのような「物語」を生きようとするのか、それを助けることが医療の中で重要な仕事になる。」

医療者と患者さんが、ともに患者さん自身の「物語」を考慮しつつ、よりよい医療を適応しようとすることがNBMの考え方であると私は考えています。例えば糖尿病と診断された場合、その受け止め方は人により様々です。糖尿病と診断されたことが全くの想定外だったと感じる方もいれば、やっぱりそうだったかと感じる方もいます。病気の捉え方、向き合い方は、患者さんのそれまでの経験、家族、環境、価値観、信念、感情などにより左右されるのです。特に糖尿病のような慢性疾患では、患者さんがどのように糖尿病を捉えているか、今後の生活の中でどのように向き合っていくかなどを考慮しつつ治療方針を考えていくことが重要です。ナラティブ・アプローチは、医療者が患者の語る物語を理解することにとどまりません。将来に向けてより望ましい物語が形成できるよう手助けすることもその役割の一つです。