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- 2023.07.26
- CATEGORY先生のへや
EBMとは?(その2)
前回、EBMが生物学的医学ではなく、臨床医学に基づくものであることを説明しました。その例として、生物学的医学に基づく仮説が、臨床医学で否定された論文を紹介しました。
今回はその逆、生物学的医学では予想されなかった効果が臨床研究で明らかになった例、新しい糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬の臨床研究を紹介しましょう。
糖尿病という病名は、「尿に糖が出る病気」に由来します。糖尿病ではインスリン作用が低下し、血糖値(血中グルコース)が上昇し、その結果尿に糖が排泄されるようになります。SGLT2阻害薬は、腎臓の尿細管に作用して、腎臓からのグルコース(ブドウ糖)の再吸収を阻害し、グルコースを尿中に排泄することによって、血糖値を下げる薬剤です。つまり、糖尿病患者さんの尿糖をあえて増やすことで、血糖値を下げようとする、なんだか糖尿病治療に逆行するようなイメージのある薬剤です。私は、「ただ尿に糖を出して血糖値を下げるなんて、本当に糖尿病の治療に役立つのだろうか?」と疑問に思っていました。
ところが、その後この薬剤の驚くべき効果が発表されました。この薬剤を心筋梗塞などの心疾患の既往がある人に投与すると、血糖値が下がるばかりではなく、心不全のリスクが低下したり、腎機能の悪化を抑える効果が見られたのです。これは私の予想外の結果でした。最近では、この薬剤が、糖尿病のない心不全や慢性腎臓病の治療薬として保険適応となりました。なぜそのような効果があるのか、その仕組はまだ研究中です。