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- 2023.07.25
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EBM(Evidence Based Medicine、科学的根拠に基づいた医療)とは?(その1)
当クリニックの新しいウェブサイトを作成する際に、私は当クリニックがどのような医療を目指しているのかを改めて考えました。そして、前回、3つの言葉、EBM、NBM、SDMについて紹介しました。
まずはEBMについて説明します。EBM(Evidence Based Medicine)とは「科学的根拠に基づいた医療」のことです。
多くの方が医療は科学的な根拠に基づいて行われていると考えていると思いますが、ここで言う「科学的根拠」とは、人を対象にした研究、つまり臨床研究を指します。私が医学生だった頃、病気の仕組み(基礎医学)を学び、その基礎医学に基づいた診断や治療方法を勉強しました。つまり、病気の診断や治療は、その病気について基礎医学的な知識を持つことから導き出され、それが医療に直結するものと考えられていました。このアプローチ方法は、生物学的な医療と呼ばれることもあります。臨床研究は、生物学的な医学が人に適用されるかどうかを確かめるために行われます。臨床研究の結果、生物学的な見地から病気を理解していても、それが必ずしも適切な治療につながるわけではないことがわかってきました。
この事実を説明するために、よく引き合いに出される臨床研究があります。心筋梗塞による突然死の一因として不整脈があります。そこで、心筋梗塞を発症した際に抗不整脈薬をあらかじめ投与すれば、心筋梗塞後の突然死を防げるのではないかと考えられました。この仮説に基づいて臨床研究が行われたのですが、逆に抗不整脈薬を投与した場合の方が心筋梗塞後の死亡率が高くなってしまい、予想に反した結果に終わってしまいました(N Engl J Med 1991; 324:781-788)。
別の例を紹介しましょう。野菜を多く摂取している人の方が癌の発症率が低いという疫学調査があります。野菜に含まれるβカロテンが抗酸化作用を持っていること、野菜を多く摂る人の血中βカロテン濃度が高いことなどから、βカロテンががんの予防に役立つと期待されました。そこで、アスベストに暴露され肺がんを発症しやすい人を対象に、βカロテンを投与して、がんの発症が抑えられるかどうかを調査する臨床研究が行われました。ところが、予想に反してβカロテンを摂取したグループの方が肺がんの発症率が高くなってしまったのです(N Engl J Med 1996; 334:1150-5)。
これらの2つの研究からわかるように、病気についての基礎研究や生物学的仮説が正しくても、実際の人間を対象とした臨床研究で証明されない限り、その情報を医療に適用することはできません。つまり、EBMのアプローチは、生物学的根拠ではなく、臨床研究による科学的根拠を重視する医療の考え方です。