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- 2026.06.07
- CATEGORY先生のへや
飲むインスリン

先日、ある患者さんから「飲むインスリンはあるのですか?」と質問されました。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンが足りなくなることで血糖値が上がる病気です。もし「飲むインスリン」が実現すれば、注射が苦手な人でも使いやすく、まさに理想的な治療薬といえます。
実際、インターネット上で「飲むインスリン」とうたう健康食品の広告を見かけることがありました。しかし、その内容をよく確認すると、インスリンとは全く別物であり、糖尿病患者にてインスリンと同じように血糖値を下げる効果は期待できません。
なぜインスリンは注射でしか使えないのか?
皆さんはなぜ、インスリンが注射薬なのかご存知ですか?インスリンは「ペプチドホルモン」と呼ばれる、数個〜数十個のアミノ酸がつながってできた物質です。アミノ酸と聞くと、肉や魚に含まれるタンパク質を思い浮かべる方も多いと思います。食事から取れるタンパク質1分子のアミノ酸の数は百〜千くらいですから、ペプチドよりずっとに大きいのです。食べ物に含まれるタンパク質は、胃や腸で細かく分解され、最終的にはアミノ酸として体に吸収されます。タンパク質より小さなペプチドであれば、あっという間に胃腸で分解されてしまいます。そのため、
•飲んだインスリンはアミノ酸まで分解されてしまう
•本来のインスリンとしての働きを失う
•血糖値を下げる効果が出ない
という理由で、「インスリンは注射により体内に直接入れる必要がある」のです。
しかし…“飲むインスリン”に近づく研究が登場!
インスリンの発見から100年、多くの研究者が「飲むインスリン」の実現に挑んできました。しかし、これまで決定的な方法は見つかっていませんでした。
ところが最近、熊本大学から興味深い研究結果が発表されました。熊本大学大学院 生命科学研究部(薬学系)の伊藤慎悟准教授らの研究グループは、これまで注射でしか投与できなかったインスリンを、「飲み薬」として口から飲んでもしっかり効果が出るようにする新しい技術を開発しました。マウスを使った実験では、この「飲むインスリン」を使うことで、血糖値を正常なレベルまで下げることに成功しています。研究チームは、「小腸透過性環状ペプチド(DNPペプチド)」という物質を利用して、この壁を乗り越えました。以下の2つの方法を用いると更に吸収率が高まり、実用化に近づきました。一つは、インスリンと、新しく開発した「D-DNP-Vペプチド」を混ぜ合わせる方法、もう一つは、インスリンに直接DNPペプチドを化学的に結合させる方法です。これまで開発されてきた「飲むインスリン」は、注射に比べて大量の薬(10倍以上)を飲む必要がありましたが、今回の技術では注射と同じ量の約3〜4割の効果を達成しました。これにより、飲む量を大幅に減らせる可能性があります。また、1日1回、3日間飲み続けても、毎日しっかりと血糖値を下げる効果が確認されました。この技術は、注射の恐怖感や手間から患者さんを解放し、生活の質(QOL)を大きく向上させる可能性があります。今後は、人間への応用を目指して、まずはイヌなどの大型動物での実験を行い、安全性や効果の持続性を確認していく予定だそうです 。今後この研究の発展を期待したいと思います。
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